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下関簡易裁判所 昭和33年(ろ)158号 判決

被告人 永吉憲一

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は、被告人は法定の除外事由がないのに、昭和三三年六月一〇日午前一〇時頃山口県下関市竹崎町下関専門大店前道路において、自動三輪車(山六せ一二二七号)に自動車検査証に記載された乗車定員三名より二名を超えて乗車させ運転した。(罰条として、道路交通取締法施行令第三九条第二項、第七二条第一号)というのであり、予備的訴因として、仮にそうでないとしても、被告人は法定の除外事由がないのに、前記の日時、場所において、貨物の積卸に必要でない人員二名を、前記自動三輪車の後部荷台に乗車させ運転した。(罰条として、道路交通取締法施行令第三八条第二項、第七二条第一号)というのである。

先ず、主位的訴因について按ずるに、自動車検査証の写及び被告人の当公判廷における供述によると、本件自動三輪車の乗車定員が三名であることが認められるところ、道路交通取締法施行令第三九条第二項本文にいう「自動車検査証に記載した乗車定員」とは、本件のような貨物自動車においては、乗車のため設備された場所すなわち運転台(助手席を含む。)に乗車を許す定員を指称し、他の場所への乗車はこれに含まれないものと解するを相当とする。

そして、被告人、証人吉田堅誠、同池本公彦、同栗山文相、同高橋桃代の各当公判廷における供述を綜合すると、被告人が公訴事実摘示の日時、場所において、本件自動車の乗車のため設備された運転台に、後記貨物の重量の検測に立会すべき貨物の売渡主高橋造船鉄工株式会社の社員高橋桃代外一名を乗車させ、且つ後部荷台に池本公彦、栗山文相の両名を乗車させ運転したことが認められるが、被告人の右行為中、運転台に自己の外高橋桃代外一名を乗車させ運転した行為は、自動車検査証に記載した定員(三名)の範囲内で乗車させ運転したものであつて、もとより道路交通取締法施行令第三九条第二項本文の規定に違反するものではなく、また荷台に池本公彦、栗山文相の両名を乗車させ運転した行為も、予備的訴因のような嫌疑を残すとしても、右規定の自動車検査証に記載した乗車定員を超えて乗車させ運転した場合に該当しないといわなければならない。よつて主位的訴因の罪は成立しない。

次に、予備的訴因について考えるに、前記各証拠を綜合すると、被告人が同訴因摘示の日時、場所において、本件自動三輪車(最大積載量二〇〇〇瓩)を運転した際その後部荷台に、池本商店が高橋造船鉄工株式会社から買い受けた古鉄類約一トン(ダライ粉と称する旋盤による鉄の削粉及び屑九七五瓩)を積載し、且つ該荷台に池本公彦及び栗山文相を乗車させていたこと、右池本、栗山の両名は当時右貨物の積卸作業に従事する人員として荷主池本商店から派遣され該両名及び被告人等の積込作業(スコップ及びガンズメを使用)により右貨物を下関市竹崎町四丁目所在の高橋造船鉄工株式会社構内において積載したものであり、そして同貨物は重量検測所の同市西細江町トラックスケールに立ち寄つた上直ちに同市彦島本村所在の池本商店まで運搬帰店するための運搬途中であつたこと、並びに本件自動三輪車に右当時の積載貨物約一トン(ダライ粉等)を積卸するには、時間に拘泥しないとすれば運転者被告人一人のみでも不可能ではないが、長時間の作業を要するので他の者の助力を必要とするものであつたことが認められる。

そこで、右認定事実に、短時間に高能率的運搬を目的とする自動車による運搬の性質を考え合わせると、被告人が池本公彦、栗山文相の両名を後部荷台に乗車させ運転した行為は、道路交通取締法施行令第三八条第二項後段にいう「貨物自動車の運転者が貨物の積卸に必要な人員を乗車させる」除外事由の場合に該当するものと認めるを相当とする。したがつて、予備的訴因の罪もまた構成しないといわなければならない。

よつて、刑事訴訟法第三三六条前段に従い、被告人に対し無罪を言渡すこととする。

(裁判官 小林実)

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